電車内で貴重な会話を聞き耳した話

先日電車内で貴重な会話を聞き耳した。

 

帰宅ラッシュの最中、電車の椅子に座っている白髪混じりで同年代の男性サラリーマンふたりの会話が耳に入ってきた。

聞くつもりはなかったのだが、日本の電車はマナーに守られていて必要以上に静かだった。


「最近の若い子達は...」のくだりが聞こえてきたこともあって、また若手への不満の会話なのだろうと決め付けて、聞き耳を続けていた。


が、私の予想はすぐさま裏切られた。


男性A「最近の若い子達は、子どもを育てにくい環境で働いていて可哀想だ」

男性B「全くですね。賃金は安い。残業は多い。共働きしなければ生活は成り立たないですもんね」

男性A「そんな状況では、子どもを生みたいと思える家庭がどんどん減ってしまう」

男性B「子どもは減っているのに我々のような老人は増える一方。年金で支えられるわけがない」


ここまで聞いて、私は眺めていたスマートフォンの明かりを消した。

こんな考えを持っている初老のサラリーマンがこの世に存在するとは思っていなかった。

そんな自分が恥ずかしくなった。


毎日18時に帰れて、高給をもらっている「上がりを決め込んだおっさん」がいるから、若手の自分たちが苦汁をすすっているんじゃないかと。

少子高齢化やばいらしい。育児給付金あげるから子ども作ってね。あとは宜しく。

という暗黙のメッセージを投げつけられているなどと考えていた。


この後、私の予想は更に裏切られることになる。


男性A「最近は我々のような、まだ働ける老人を企業が再雇用しているけどその必要はないと思います」

男性A「体力も衰えて、記憶力も頼りなくなってきた人間を高給で雇い続けるのはコストが高過ぎる」

男性B「そうですね。歳をとっても働けるのはありがたいことですが、若者の負担にはなりたくないですね」

男性A「もっと誰でもできる簡単な仕事を我々が担えば良いと思うんですよ」

男性B「コンビニやスーパーのレジうちとかね。直接人と関わるならボケ防止にもなるだろうし」

男性A「そうそう。特に早朝や深夜の仕事とか。どうせ寝付けないし。すぐに目が覚めてしまうし」

男性B「GWの休日とか働いてもいいですよね。どこも混雑してて動けない我々は、近所で働いてアイデンティティを保てる」


目から鱗瓢箪から駒

もうなんて言ってよいかわからなくなるほど、驚いた。

こんなことを考えている人がいるのかと。

そんなwinwinな発想があったのかと。

ただ語っているだけで、実際になにかしているわけではない。それでも私は嬉しかった。

そんな風に未来を良くしようと思案している人がいることに。

どう見ても普通のサラリーマンにしか見えない初老の男性たちの意見だということに。


勿論全ての初老のサラリーマンが「上がりを決め込んだおっさん」ではないと思っていた。

責任という重圧に耐えながら、社員の家庭を守るために奔走する社長たちもいる。

高度経済成長に巻き込まれ、文字どおり馬車馬のように働いて会社を支えてきた先人たちもいる。

今よりももっと頭の固い上司に囲まれて、他人行儀な部下たちの罵詈雑言に耐えてきた中間管理職たちもいる。そんな人達が「そろそろ休ませてくれよ。。。」と今のポジションにいるのもうなずける。


その中でも将来を憂いて、情報を発信したり、

自ら改革に乗り出しているような人達は、極少数だと思っていたのだ。

テレビに出ているような名の知れた会社の経営者や、政治評論家のような、語ることが仕事の人たちだけだと。


なにが貴重な話かというと

年齢層の高い人達が自ら進んで人手が足りない仕事を支えようという意見が

とても貴重なアイデアではないかと思った。


これからの日本の未来を作っていくのは、若手だけではない。

この国に住む全ての人が、意見を出し合って、手を取り合う必要があるのではないだろうか。